おそろい最上級





「祐巳の部屋にお邪魔するのは久しぶりね、綺麗に掃除してあるわ」

さぁ、お入りになってください、とドアを開けると、開口一番祥子さまはそう仰った。
今日は祥子さまとデートの日。いつもなら何処かへお出かけするのだけれど、たまにはゆっくり、ということで祥子さまを久しぶりに私の部屋にご招待した。
ご招待するのは高等部卒業のとき以来のこと。本当に久しぶりだった。

「何か持ってきますね」
そう言って立ち上がると、「気にしなくていいのよ」、というお声。
でもそういうわけにはいかない。ダイニングのテーブルにはしっかりとお茶とお菓子の用意をしておいたのだから。
いつもならお母さんが気を利かせて(いや、単に祥子さまとお話したいだけなのかもしれない)お茶を持ってきてくれるけれど、今日は外出中だ。
お父さんも祐麒も。というか、いない日を選んで祥子さまには来てもらったのだ。
二人っきりがよかったから。

祥子さまが持ってきてくださったケーキをお皿に乗せ、準備していたお菓子やお茶と共にトレーに乗せて部屋へ急いだ。


高そうなケーキだなぁ・・・・・


昔から、祥子さまが持ってきてくださるお菓子はいつも美味しそうで、いつも高そう。
そうだよなぁ・・・天下の小笠原グループのお嬢様なのだから。こういうと祥子さまはあまり良いお顔はなさらないけど事実だから。
そして、私はそのお嬢様とお付き合いしている・・・・昔はそのことで悩んだこともあったかな。
今では気にしていないけどね。



「お待たせしました」
と、ドアを開けると先程まで座っていらっしゃった場所に祥子さまはいなかった。

「何をしていらっしゃるのですか」
棚の上を見ていらっしゃるようだったから、とりあえず声を掛けてみる。




「懐かしいわ、ちゃんと持っていてくれたのね」

祥子さまがご覧になっていたのはジュエリーボックス。今までの祥子さまとの思い出の品が沢山つまった私の宝物だ。

「当たり前ですよ」

だって祥子さまから頂いたものやおそろいで買ったものなのだから。
嬉しくて楽しくて。毎日でも眺めていたい大切な宝物。


「覚えていらっしゃいますか、これ」

そう言って取り出したのは一つのオルゴール。

「覚えているわ、時々聴いているもの」

そう、これは一年前の五月中旬。素敵な雑貨屋さんでみつけたオルゴールだった。とても綺麗な細工が施してあって。
私があまりにも見入ってしまったものだから、祥子さまがおそろいで買ってくださったのだ。

とても綺麗な音色で、特にお気に入りの宝物。祥子さまも大切にしていてくださっているんだ・・・・。そう思うと嬉しくなる。



「それでは祐巳、これは覚えていて」

「もちろんですっ」

祥子さまが手に取ったのは高等部時代に私がおそろいでプレゼントしたブローチ。
お花がついていて、とっても可愛くて。祥子さまにプレゼントしたくて2つ買ったものだった。
差し上げたらその場でつけてくださって。嬉しかったなぁ。

その後も、ジュエリーボックスから溢れてくる思い出をあれこれ取り出し、懐かしいお話を沢山した。




あれはどれくらい話をしたときだっただろう・・・祥子さまのご様子がなんだか・・・・・

「そうそう、これ私、どうしてもおそろいで欲しくて、わざわざ別のお店まで探しに行ったんですよね」

半年前に買ったネックレスを取り出して話をしていたときだった。


「・・・・・」

「祥子さま」

「・・・・・」

どうしたんだろう、何だか変。祥子さまを捕まえて変、というのも恐れ多いが本当に何だか様子がおかしかったのだ。

「どうかなさいましたか、もしかして御気分でも・・・・・」

そう言い掛けたときだった。

「・・・・・ねぇ祐巳、私とおそろいって本当に嬉しいの?」

「嬉しいですよ!もっともっと欲しいくらい」

おそろいが欲しくないなんて私にはありえないです
そう心の中で呟いた。

「本当に?」

思いつめたお顔。こんなときでも美しい横顔。
・・・・・って、何を考えているのよ、私!ダメだって。

本当です、そう答えようとしたそのときだった。


「ねぇ、祐巳・・・そんなにおそろいがいいのね」

「・・・はい。」

「ねぇ、あのね祐巳・・・・・では、おそろいの・・・・おそろいの苗字にする、っていうのはどうかしら」


どういう意味ですか?、と訊き返すこともできないほど

一瞬、何が何だかわからなくなった。

祥子さまとおそろい………?おそろいの―――――

時が止まったみたいだった。

あまりにも急な出来事過ぎて。



「私、祐巳とおそろいの苗字にしたいと思っているの」


黙り込む私をよそに、祥子さまは言葉を続ける。
さっきみたいな途切れ途切れの言葉でなく。

「私と結婚して頂戴、祐巳」


その言葉一つ一つには自信が満ち溢れている。



「返事は急がないから――――――――」

そう言いかける言葉を遮った。

溢れる気持ちがやっと言葉になった。

「私もっ、私もおそろいの苗字がいいですっ」


いつから流れていたのだろう。涙で前が見えなくなっていた。
夢中で祥子さまに抱きついたことだけは覚えている。


「今までの中で一番嬉しい『おそろい』です――――――――――」




この世で祥子さまと私だけの。二人だけの特別。
これ以上の『おそろい』は他にはなかった。

 




<END>




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